人はパンのみにて生くるにあらず

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 スマホに熱中する乗客の中で、女性の視線は窓の外に向けられていた。  新宿までの線路沿いの景色は代わり映え無い儘ガラス越しに流れていく。  見ているようで何も見ていないのかもしれない。  肩下辺りまでの、カラーリングをしたセミロング。  年齢は凡そ二十代。  メイクは無難、華やかなのは付け睫で飾る目元ぐらい。  服装はオフホワイトのブラウスにブルーの花柄のロングスカート。  美人の部類に入るだろうが、視線を集める派手なタイプではない。  こうした細かな特徴にディオンの視線が引き寄せられた訳では勿論ない。  1つだけ特徴があった。  彼女の顔の上に死期膜が揺らいでいたのだ。  スーパーで会った男の子と同じ匂いがした。
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