人はパンのみにて生くるにあらず

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 降りて乗って降りて乗って。  代わり映えしない色の塊が二人の目の先で同じ動きを繰り返す。  新陳代謝はされても電車内の密度は一定に保たれた儘だ。  退屈なのか、ヨエルが欠伸をした。  数回電車に乗っただけで、車窓からの風景にも、もう飽きてしまったようだ。  池袋で電車内の密度が少し薄らいだ。  人でも悪魔でも天使でも、ソーシャルディスタンスが確保されていないと息苦しいのは同じだ。  次の大塚を見送り巣鴨で降りた。  ホームにも人は疎らで全体的にのんびりとした雰囲気だ。    改札口を抜けると広い通りを車も人も行き交うが、新宿や下北沢とは眺めが違う。  何となく右方向を選んだ。  土地勘ゼロの二人はどうしても人の動きに倣ってしまう。  人混みが苦手な癖に。    
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