人はパンのみにて生くるにあらず

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 暫く歩くと巣鴨地蔵通商店街と赤い文字が並ぶ大きなアーチがあった。    「歌舞伎町みたいだね。」  みたい、なのは赤い文字だけだ。  取りあえず、洋品店、食品店、飲食店らしき店が先まで続いている。  「パジャマも服も此処で買えそうだな。」  ヨエルが自然に自分の手をディオンの手に 重ねてくる。  こうして直ぐに手を握ってきたり抱きついてくる癖に、少しでも気を逸らせば何処かに行ってしまうのだから、人間流に表現するならヨエルこそ小悪魔だ。  だが、並外れた嗅覚があろうと無かろうと、ディオンがそれについて苦言を洩らす事は無いし不満に思った事もない。  時にも土地にも生にも執着しないのだから、互いを縛るという意識も生まれないのかもしれない。
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