芳香は人の心を楽しませる

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 よって悪魔が介入する必要があるのか。  ヨエルだけでいいんじゃないか、というのが素朴な疑問だった。  でも──  「ずっと見てるけど、あの椅子買う?」  ディオンは悩んだ。  背凭れがカエルの顔になっている緑のプラスチックの椅子。    その時、独特の匂いが鼻先を掠めた。  「血の匂いがする。」  間違いない。  ディオンの悪魔的嗅覚が捉えた。  「人間の?」  ヨエルの問いには答えず、鼻をヒクヒクさせながら道を進む。  「犬って鼻がいいらしいね。ディオンとどっちが鼻がいいんだろう?」  天使って何の役に立つんだ。  鼻は効かないし勘も働かない。  神にとっての単なる手足で可愛いだけ。  人間界にあっても天界にあっても。  「アパート、あそこで良かった?もっと広いとこ沢山あるみたい。」  不動産屋に貼られている物件の間取図に気を取られているらしい。  「下北沢って面白い店が沢山あるなあ。僕達の住んでるとこよりずっと。」  「コンビニもスーパーもあるだろ。」  匂いを辿りながら答える。  「コンビニって何処にでもあるんじゃなかったっけ。」  
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