芳香は人の心を楽しませる

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 雑貨屋、楽器屋、古着屋、古書店、カフェ に対していちいち感想を並べていたヨエルも、道を逸れ狭い小道に入ると静かになった。  「カーカーカーカー、カラスの羽根ってディオンの羽根にそっくりだね。」  今度はカラスの鳴き真似ときた。  景色は一軒家やアパートが並ぶ閑静な住宅街へと移っていた。  と、思いきや、道幅一杯に広がる人集りに行く先を阻まれてしまった。  「何か淀んでる。」  人混みは大抵淀んでいるものだ。  密集した人々の頭が丘のように続く先に、黄色のテープが揺れていた。    「この先に何があるんだろう?」  165cm程度の身長しかないヨエルが人間そのものの表情で聞いてきた。  天使は悪魔よりも体格で劣る。  そうした特徴は今の肉体にも反映されていた。  「先に黄色のテープが張ってある。事故か事件か──」  187cmも丈があるディオンは前に陣取る人々より頭二つ以上抜けていた。  「沢山の報道陣が──被害者は30代の一人暮らしの女性で──」    切迫感漂う女性の声がディオンの言葉に被さる。  ニュースで流れていたのと同じ声。   「朝のニュースでやってた殺人事件の現場みたいだね。淀みが酷くて浄化したくなるよ。」  
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