芳香は人の心を楽しませる

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 「好きにすればいい。」  ヨエルの右手がスッと上がると、手の平から透明な何かが放出された。  「息苦しさが無くなった。」  負の感情渦巻く魔界出身のディオンにとっては、人が生み出す淀みなどノンアルコール程の酔いも齎さない上に寧ろ栄養ドリンクみたいなものだ。  今行われた浄化はヨエルの居心地を良くしているだけなので、人間界のバランスには影響しない。  人の世界は、あくまでも人によって回るものであり、悪を天使の力で浄化する事も出来ない。  天使の本分は見守る事なのだ。  だが、悪魔は違う。  古来より悪魔は人間界にズカズカと土足で踏み込んできた。  そして、やり過ぎた魔王ルシファーは神に氷付けにされた。  小者の悪魔達が人を堕落させ、小さな悪事を犯すよう誘導するくらいは多目に見て貰える。  と、いうより悪魔の介入こそが人間界のバランスを保ってきたとも言える。  何しろ、天使は見守るだけなのだから。  
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