芳香は人の心を楽しませる

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 「やっぱり好きかも……」  小さな囁きに腰を屈めて耳を寄せる。  体温の上昇と強く早くなる鼓動。  「すいません、少しお時間いいですか?お訊ねしたい事があるんですが。」  ヨエルを抱き締めた儘、その場を離れようとした所で、洗濯のし過ぎで色褪せ感漂うヨレヨレのシャツみたいな二人連れの男達に声を掛けられた。  これはディオンから見ての感想だ。  一人がくたびれたグレーのスーツの内ポケットから手帳を取り出し開いて見せた。  警察手帳というやつだ。  「ああ、何でも聞いてくれ。」  ヨエルの瞳が面白そうに輝く。  「お住まいは何方ですか?近所の方?」  二人はヨエルを一瞥するも、直ぐにディオンに目を移して視線を固定した。  黒い傘を開いてディオンに差し出しながら答えを迫る。    コンビニの店員と同じ目付き。  いや、それよりも鋭い。  仕方なく、小田急線上にあるマイナーな駅の名を口にした。
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