芳香は人の心を楽しませる

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 身分証の提示まで求められた。  天界の職員の手による神の承認済みの偽造保険証だから、ある意味正規品だ。  病気になっても大丈夫。  ヨエルはディオンの腕をすり抜け、雨に濡れるのも構わず電柱に止まったカラスに微笑み掛けたり話し掛けたりしている。  人間界基準で挙動不審なのはどう見てもヨエルだが、刑事達もコンビニの店員もノーマークなのは天使だからか。  コンビニでだってヨエルの方が怪しい行動を取っていた。  缶詰めを開けようとしたり、炭酸ジュースを思いきり振ってみたり。  当然、注意はされた。  但しディオンが。  「怪しいとこが無いのが怪しいな。どうにかして引き留める理由を──」   左側の刑事が隣の刑事の肩に手を置き耳打ちした。  ヨエルがディオンの視線を受け微笑み返す。  「おい……あれは……」  右の刑事が目配せする。  「連れの少年の年は幾つなんですか?」
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