芳香は人の心を楽しませる

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 真っ白な半円アーチが連なる石造りの回廊に囲まれた庭に、虹色の光が降り注ぐ。  緑の葉は生き生きと身を張り、花の蕾も神の唄に合わせて固い結び目を解いていく。  天界にある神は目覚めと共に唄い賜う。  「またかよ。」  ディオンが瞼に掛かる漆黒の前髪をうんざりした様子でかき上げると、目映い光が散った。   光が影を消しながら、回廊の壁に凭れ退屈そうに投げ出された長い脚を上っていく。  せっかく日陰で寛いでいたというのに。   光と影のコントラストこそ美しい。  何事もバランスが大事だ。     ディオンは影を追いやる神の唄が苦手だった。  その一番の理由は、彼が悪魔だからだ。  「唄い終われば元に戻る。」  両腕を頭の後ろで組むと瞼で光を閉ざし、闇に耽る。    「天使だ。」  仲間の囁きに反応して、闇を集めたような黒い瞳が鋭く動いた。  例えるなら、バニラ、フローラル、シトラス、ローズ、激しく鼻を動かし、芳しい香りを一杯に吸い込む。  回廊の向こうに麗しい天使達が姿を現した。  天使は悪魔に比べ心の在り方が単調だ。  但し悪魔から見て。  向こうは此方をどう思っているかを知らない。  
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