芳香は人の心を楽しませる

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 元来た道を戻ろうとした時、ディオンの鼻がピクリと動いた。  現場のアパート内からではなく、直ぐ近くで微かな血臭。  前を行く人集りの中から漂ってくる。  一人の男が此方を振り向き、一瞬視線が合い直ぐに逸らした。  「さっきの刑事達、ディオンを捕まえようとしてたのかな?」  「そうかもな。それより、アイツが犯人だ。」  「あれ?後ろ向きで良く見えないけど、アイツが犯人かぁ。刑事に知らせる?直接介入になっちゃうかな?捕まらなければ地獄の住人増えちゃうね。」  「人間界は面倒なんだ。習っただろ?裁判とか。証拠が無いと逮捕出来ないし裁けない。」  「じゃあ、しょうがないね。カエルの椅子の店、もう一回寄って帰ろうよ。」  「そうだな、帰ったら洗濯物を取り込まないと。せっかく干したのに濡れちまってるんだろうな。ヨエル、お前も随分濡れてる。刑事達のせいだ。人間界の言葉では時間の無駄と言う。」
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