芳香は人の心を楽しませる

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 「このカエルは緑で目に輝きがあるし笑ってる。だから生きてるカエルって事になる。」  「カエルって大体緑じゃなかったっけ?その椅子は生きてないよ。」  「人間共は悪魔を呼び出すには干物が必要だと思い込んでるようなんだ。イモリやカエルの黒ずんだ干物を並べて呪文を唱えるのは間違った知識なんだと此方から教えてやった事は無いけどな。生きてるカエルは緑。俺は干物は見飽きたんだ。買ってくる。」  ディオンがレジで会計を済ませて戻るとヨエルの姿が消えていた。  心が激しくざわめき、店中を探し回る。  ヨエルは雨足強まる外に出ていた。  先程の犯人の男を見掛けたからだ。  遥か高見の天界から見下ろせば人などコーヒー豆。  いや、挽きたての粉みたいに小さな存在だ。  だが人を殺す者は人間界では悪と認定され、天界魔界判断でも地獄行きは免れない。  裁きを受けずに死ねば、更に下層の地獄に墜ちる事になる。  男から発せられる追い詰められた人間特有の気が、ヨエルを惹き付けた。  それで彼は、見守る事にした。  男は現場のアパートの方向に足を向けたり、辺りの店を見回したりとソワソワしている。  
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