芳香は人の心を楽しませる

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 此処は悪魔と天使を集めた魔界と天界の中間にある学舎だ。  顔を合わせても互いに言葉すら交わした事はない。  だが、悪魔達は魅了されてしまう。  その芳香と麗しき姿に。  天使達の髪が光を含み靡くと虹が浮かぶ。  神の唄に耳を傾ける姿の麗々さには抗えない。  彼等の上をなぞる瞳が一人の天使の上で止まった。  肩を擦る長さの髪が風に流れ、細い指先が煩わしげにそれを掬う。  一旦閉じた瞼が開かれた時、ハシバミ色の瞳がディオンに向けられた。  「天使だ……」  彼の名がヨエルと知ったのは、学舎を卒業して暫くしてからの事だった。
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