汝の敵を愛せよ

12/64
前へ
/308ページ
次へ
 「此処?」  ヨエルは目を伏せ、エプロンを外した。  朝の光を浴びて輝く一糸纏わぬ天使の肉体。  彫像のような美しさに人間の鼓動と血脈の躍動が色味を与える。  ヨエルの頬に血が上り、指先で胸の淡い突起に触れた。  「此処を舌で舐められた時、怖かった。」  白い歯と舌が覗く桜色の唇と、大きな瞳が訴える。  瞳の揺れに合わせて色濃い睫毛も震えていた。  ディオンの脚の間にある物が悪魔的な主張をし始めた。  『俺を早く解き放て。』  頭の右、左と、方々から喚き散らす悪魔の衝動。  拳に痛い程力が入る。  全身の血と細胞が沸き立ち、頭の中の悪魔に加勢する。  だが、自分の内で雄叫びを上げる者は自分ではない。  悪魔的でありながら悪魔を騙る贋物だ。  いつの間に自分の中に住み着いたのか。  ディオンは若くとも悪魔の端くれだ。  常に自分が王であり、魔王にさえ膝を屈したくない。
/308ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68人が本棚に入れています
本棚に追加