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二人が紀伊国屋書店を漸く後にした時には、空の色は確かに夜を示していた。
だが、ビルが立ち並ぶ通りは昼よりも眩しく喧騒が溢れ、怠惰に活気付いている。
太陽よりも、この街には人工的なケバケバしいネオンこそ似つかわしくもあるが、真の闇から人々の目を逸らし、薄っぺらな幻をスクリーンに映し出そうとしているように見えた。
闇に逆らう光。
時を狂わせる光。
ディオンは悪魔故に闇を愛す。
神の齎す光よりも抗いたくなる。
「これは人間の作った太陽?光が溢れているのに祝福を感じない。」
「地獄行きの魂を製造する街って事だな。」
ディオンは擦れ違う人々の顔の上に浮かぶ間近な死期を認め、印を幾つか付けた。
人間ならば死相と言い表すだろう。
ネオンに照らされる顔はどれも青白く歩く屍のようでもあった。
「皆地獄行き?」
「俺には地獄行きしか見えないし、お前には死期が見えないんだから仕方ないだろ?」
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