芳香は人の心を楽しませる

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 「ああ、旨かった。食事っていいよな。腹が脹れる感覚にまだ慣れないけど。」  「僕もだよ。ああ、満腹満腹!」  ヨエルが黒髪をかき上げる。  人間界には天使と悪魔は存在し得ない。  よって本来の特性を残しつつも、今は肉体という枷に縛られた普通の人間として生活している。  怪我をすれば血を流し、風邪もひくし腹も減る。    ディオンは舌で唇を舐め、全裸のヨエルをじっと見詰めた。  空腹にも似た渇望。  「コーヒー入れるよ。」  「ああ──」  六畳程の居間にはカラーボックスとリサイクルショップで見つけた26型のテレビに再生機能だけのDVDが置かれていた。    ディオンは敷かれた儘の布団に寝そべりテレビを付けた。  国営放送のニュース番組で止まり、直ぐにチャンネルを切り替える。  「コーヒー入ったよ。ニュースにしといて。」  仕方なくチャンネルを戻すと、殺人事件のニュースを読み上げる女性キャスターの声が流れてきた。  ダイニングキッチンの椅子に座り直しコーヒーの香りを吸い込む。  悪魔は嗅覚に優れている為匂いに敏感なのだ。
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