汝の敵を愛せよ

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 心の声が洩れる。  悪魔的ストレスが溜まっていた。  人間界には目を惹く物は沢山ある。  だが、その先にある関心まで行き着かない。  常に真っ直ぐで交わらない平坦な道を歩いているようなものだ。  人という器に縛られた感情の揺れにはうんざりする。  もっと悪魔的強い衝動欲求に基づき内なるものを解放したい。   しかし、それを呼び覚ますものが不足している。  人間ならば刺激が無いと言い表すだろう。  いや、ヨエルがいる。  ヨエルに時折抱く衝動こそ当に悪魔的だ。  しかも人間界にきて強くなっている。  それが人間の肉体を借りて、より分かり易くはっきりと形となって表れている。  デニムで覆われた下半身の、全身に対して一割にも満たないような部位が、思考を司る脳を支配する事さえある。    デニムの固い生地の下で、今もソイツが脈打っていた。    「ヨエル。」  ふと、頭を上げて辺りを見回すが、ヨエルの姿は何処にも無かった。    
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