芳香は人の心を楽しませる

8/27
前へ
/308ページ
次へ
 コーヒーも悪くないがヨエルが発する甘い香りを打ち消す程ではない。  悪魔だけが感知する媚薬。  「人間の肉体を得てから、色んな事に感情が揺れるんだ。きっと肉体の檻に縛られる卑小な存在だから、指先一本儘ならず、一歩踏み出すにも意思を必要とするからなのかな。」  ディオンは肘を付いて、テレビの方に顔を向けた儘、適当に相槌を打った。  「聞いてる?ディオン。」  「ああ──面倒だよな。人間って。」  「でも、中々面白いよ。美味しいとか、寒いとか、人間の体は実に様々なものを感受してるんだね。」  「そのせいで人間同士で殺し合うんだろうな。ニュースでやってたみたいに。」  ディオンの悪魔的無関心さは何も変わらない。  但し、人間の欲望というものを強く体で実感していた。  「はっくしゅん!──寒い。やっぱり服着よう。」
/308ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68人が本棚に入れています
本棚に追加