芳香は人の心を楽しませる

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 素早くTシャツとデニムを身に付けるヨエル。  無機質で殺風景な光景に馴染まない。  人間の作り出した卑俗な布地で清らかな肌が覆われていく。  ディオンは心の揺れを自覚した。 ___  「あらあら、ちゃんと分別して捨てて貰わないと困るわよ。」    ゴミ袋をアパートの集積所に捨てようとしていたら背後からキツめの声が掛かる。  ふり返ると年齢は4、50代、ご近所の主婦と思われる女性が立っていた。    「まあ……イケメン、若いわね。学生さん?売れない芸能人とか?引っ越してきたばかり?」  質問攻めだった。  振り向いた途端に声のトーンが和らぎ、瞳がキラキラ輝いているのは何故なのか。  「芸能人とかではないです。越してきたばかりで。学生……そうですね。そんなもんです。」  ヨエルが答える。  「じゃあ、仕方ないわね。まだ本当に若いし。イケメンだし。今度から気を付けて。分からない事があれば遠慮なく聞いてちょうだい。」
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