人はパンのみにて生くるにあらず

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 「これ、何だろう。」  「ヨエル、服を着るんだ!」  全裸の儘荷物を開こうとするヨエルに強い語調で嗜める。  「ディオン、何を怒ってるの?家の中では服を着なくてもいいんでしょ?」  澄んだ瞳がヨエルの心の内にある戸惑いを映す泉のように揺れていた。  「風邪をひく。服を着れば暖かいし風邪をひかないんだ。」  本当は裸の儘抱き合い、この綺麗な瞳をずっと見詰めていたい。  「そうだね寒い。寒いからディオンの蒲団の中に潜り込んでしまったんだ。今夜から同じ蒲団で寝ていいよね。裸で……」  今度は澄んだ泉に蜜が垂らされる。  甘えた表情で無邪気な提案。  「ダメだ。ともかく服を着るんだ。勿論夜寝る時もだ。」
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