退屈な日常に与えられるべき刺激的なサプリメント

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 ◆  帰りのホームルームが始まった。担任の朝比奈先生が教壇に両手をついて、文化祭の進捗を実行委員の生徒に確認している。 「結局春樹はこなかったね」前の席の正宗に小声で話しかける。 「そうだな。そういえば返信もないままなのか?」 「うん。まぁ、あいつが返信してこないのは珍しくもないけど。ただ、今日は本を借りることになってたんだよな。続き楽しみにしてたのにな」 「ラノベなら貸すぞ」 「いや、また今度ね」  正宗のおススメラノベは残念ながら非常に偏っている。いわゆるハーレム物ばかりで、サスペンスが好きな僕とは相性が良くない。正宗の申し出を無表情で断ると、隣の由香里が頭を片手で押さえて呟いた。 「あれ、ウソ……えぇ、マジかぁ」 「どうかした?」 「カバンに付けてたキーホルダーがね、今見たらなくなってるの」 「あぁ、そういえばいつも付けてたね。カピバラだっけ」 「悪いけどロシアンブルーのネコちゃんよ。名前はメシア。まず自分を救えって話よね。ショックだわ」  どこか他人事のような物言いは、本当にショックを受けているのかどうかよくわからない。「お気の毒に」と声をかけておく。
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