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由香里は残業中のサラリーマンのように眉間をつまむ。こいつの話はMMORPGのネタが実に多い。起きている時間の半分くらいはファンタジーの世界で過ごしているんじゃないだろうか。
「よくわからないけど、睡眠は大事だよ。程々にね」
一度どうしてそんなに夢中になっているのか訊いてみたことがあるが、彼女によるとそれは退屈な日常に与えられるべき刺激的なサプリメントだそうで、つまりその、僕にはよくわからなかった。
「二人とも、おはよう」
声に振り向くと、目に入ったのはレトロなポリゴンで作られたようにセンターでくっきりと分けられた髪の毛。そしてジョン・レノンのような丸メガネ。学校指定のネクタイをきつく締めて、真面目を絵に描いた様な男子学生、平山宗介がそこに居た。
「あ、平山、おはよう。今日は一段と真面目に磨きが掛かってるねぇ」と由香里が茶化す。
「そ、そんなことないよ。いつも通りだよ」平山はわかりやすく慌てたリアクションを返してカバンを置く。
確認したことはないが、平山は由香里に気があるんだと思う。彼女の前では平山はいつも平常心を失う。
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