マホロバシ

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お気の毒にねえ。まだ若いのに……。 就職決まったばかりでしょ? 可哀想に…… 通り魔ですって? 怖いわね……  そんな会話が頭によみがえる。服に染み付いた線香のにおいが今まであったことを現実のものにしていた。  就職が決まりうれしそうに笑っていた兄。その兄が通り魔によって殺された。体中切り裂かれ、目は抉られて。あまりに酷いので顔を見ないまま棺は火葬場に向かった。  何でこんな事になったのか。犯人はまだ捕まっていない。早く解決してほしい。  一人でいると、ようやく涙が出てくる。葬儀の最中は何だか実感がわかなくて人形のように座っていただけだったが、一人になると悲しみが波のように押し寄せてきた。声をあげず、静かに涙をこぼす。 どれくらいそうしていただろうか。時間の感覚もなく、座り込んでいる時だった。 「……?」  庭で何か動いた気がした。今は涙目だし、暗闇の中うまく見えないが、確かに何か動いた。  何だろうと思いながら外に出る。目を凝らして見てみるが、特に変わったものはなく何も見えない。やっぱり気のせいか、と思い家に戻ろうとした瞬間。 強烈な寒気を感じてその場に膝をついた。立っていられない。体はがくがく震えて、心臓の早い鼓動が耳に直に聞こえてくる。何故かはわからないが、感じる。 後ろに、ナニカがいる。 振り返るな、と頭は警告するのに、意思に逆らうように。 ゆっくりと後ろを振り返った。
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