マホロバシ

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 放課後になり、里奈は約束どおり勇哉と会った。てきとうに店に入ったが、そこは以前雪と勇哉について話すために入った喫茶店だった。つきり、と胸が痛んだが今は悲しんでばかりはいられない。 「あんたはどこまで知ってるわけ」 単刀直入に本題から入ったが、勇哉は軽くため息をついた。 「それよりまず俺をアンタ呼ばわりすんのやめろ。名前でいい」 「あっそ。私は名前でも苗字でも。じゃあ改めて勇哉はどこまで知ってるの。まさか殺したヤツの事知ってるとかいわないでよ」 「それはねえよ。まあ簡単な犯人像くらいか。それより土谷はどうなんだ」 聞かれて里奈はこれまでの事を話した。間違いなく霊力を持つ血筋だというのを確認した事と、よくわからないが力が目覚め始めたこと。 「今こうしてても人の雰囲気っていうのかな、そういうのがわかる。日に日に増してるみたいで神経とがってるのがわかるよ」 「感受性は俺より上か。相手に流されなけりゃいいけどな」  まさか目覚めたその日から街を歩いてるだけで流されかけた、とは言えない。それにしても勇哉はそういうことは鋭いようだ。人間かバケモノかの違いだけなので、本質は似ているのかもしれないと里奈は思う。 「私より勇哉の方が今回の事正確に把握してるんじゃないの? 気がついた事とかあったら教えて欲しいんだけど」 「あてにはすんなよ。あくまで俺の考えだけだからな」 注文していたアイスコーヒーが届き、一口飲む。 「まず殺したのは人間じゃないのは確かだ。お前もそのうちわかるようになると思うけどな、バケモノってのは殺意がその場に残りやすい。事件のあとお前のイトコん家付近歩いたらべったり残ってたからな。ああいう殺し方するのはたぶん鬼か」 「バケモノによって殺し方って違うわけ?」 思わず声を潜める。内容が内容だけに他人が聞いたらおかしいと思うだろうからだ。 「もちろん個体で違うだろうが、だいたいな。切り刻むのは鬼の特有の行動だし、ズタズタなのは力の加減ができてないんだろ。そう考えるとまだ若いか、下級だな。体の一部がないのは食われたんだ」 その言葉に里奈はぞっとした。 「そういえば亜紀ちゃん目が抉られてたって」 詳しくは聞いていないが亜紀の兄もなくなっている部分があったらしい。 「そこなんだよ。鬼ってのは食えりゃ問題ないわけだからいちいち部位を選んだりしない。そんな手間かけるアホはそうそういねえな。一部を除いて」 「一部?」 「昔からバケモノの間にも迷信ってのはあるんだ。チカラのある人間の目を食えばチカラが上がる、心臓を食えば寿命が延びるってな。まあそんなもん信じてるヤツなんかあんまりいねえな。信じるとしたらさっき言った若いヤツか、チカラに縋りたい下級のどっちかだ。そう考えるとこれが霊力を持った人間を故意に襲ったってわかるだろ」 確かにそうだ。里奈はうなづいたが、ふと疑問に思った。 「じゃあ雪は? 雪は何も関係ないんじゃ。もしかして雪にもそんな力があったとか?」 「そんな感じはしなかったな。まあ風祭については俺もわかんねーが。やっぱり殺気は残ってたから同じやつに殺られたのは間違いない」 それは里奈にもわかる。夢で見たのだ。 「鬼って知能あるの?」 「まあ人間と同じくらいあるのもいれば動物並なのもいるな」 「例えば駆け引きとかする? こういう行動したら相手はこう出るだろうから、みたいな」 勇哉は少し考えると頬杖をついた。 「鬼にも大きく分けて二ついる。一つは何かに取り付いたり惑わせたりと何かしらの能力を持ってる奴。こいつらは人間以上に貪欲で悪知恵ばかり働きやがる。能力も高く知能もある意味人間より上だろうからあんまり関わらない方がいい。もう一つがさっき言った動物並で本能しかないようなタイプ。あるのは食欲と凶暴さだけだ。こいつらはあんまり物事を考えない。せいぜい自分より強いのには歯向かわないとかそんな程度だな。前者は駆け引きとか平気でやるが、後者はまずありえない。今回は後者タイプだろうからないと思うぞ」 そう言うと勇哉も少し考え込んだ。もしそうなら雪を殺す理由がわからない。 「鬼を」 ポツリと里奈が言った。ん、と勇哉は顔を上げる。 「その、動物並の鬼を従わせる事はできる?」 一瞬眉をよせるが、すぐに里奈の言いたい事が分かりすっと目を細めた。 「第三者が鬼に殺しをさせてるってことか?」 里奈はうなづいた。 「その鬼の間にある迷信。人間なんて、すぐ信じるんじゃない?」  鬼を操っているのは人間、里奈はそういいたいのだ。勇哉も鬼が鬼を従わせておかしな殺しをさせるとは思えない。かえって人間の方がそういったものを信じやすい。 「前代未聞、でもねーな。実は平安時代にはよくあった事らしいぜ。式神として使ったり、前鬼と後鬼なんか有名だろ。そういう能力を持ってれば可能だ」 中には鬼と人間が契約を結ぶ場合もあるが、それをするのは知能の高い鬼で今回は関係ないので話さなかった。 「なるほど、そうなるとおおかた読めてきたな」 「でもわからない。何で鬼にそんな事させて、雪まで」 勇哉は軽く肩をすくめると呆れたように言った。 「風祭の事は知らねーが、鬼を使ってんのはまあアホなそいつが迷信を信じて鬼を強くしたいからか」 「何で? 式神として使えるようにしたいから?」 だから手っ取り早く能力を上げたいのだろうかと思ったが、勇哉は鼻で笑った。里奈を、ではなくおそらくその第三者をだ。 「そんなんじゃねーと思うぞ。たぶんアレだ。ポケモンと一緒」 「はあ?」 ポケモン? と首を傾げると、面白そうにニヤリと笑う。 「手に入れたオモチャはレベル上げたくなるだろ?」
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