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勇哉と別れ里奈は一人家路に着こうとしていた。二人で導き出した答えは果たして本当にそうなのかわからないが、いずれにしても身勝手な考えで亜紀や雪が犠牲になったのは間違いない。はあ、とため息をついてこれからどうしようかと考えた時だった。
「?」
ふと辺りを見ると人がいない。たしかにあまり人通りは多くはないが、夕方に誰もいないというのはない。それに不自然に静かだった。
ぬるり、と。生暖かい風が吹く。この風には覚えがあった。
雪が殺されたときもこんな風が吹いていた。
身を強張らせ、さっと辺りを見回す。誰の姿もないが、心臓が早い鼓動をうっていた。ぎゅっとお守りを握り締め、意識を集中させる。
後ろに、ナニか いる
そう思った。後ろを振り返る前に、とっさに横に跳ねる。すると今里奈がいた辺りを、長細く光ものが空を切った。よけていなければ、間違いなく今のもの、爪の餌食になっていた。
嫌な汗が出てきて、ようやく後ろを振り返った。
そこにいたのは、人ではないもの。これが鬼か、とどこか冷静に受け止める自分がいた。昔話に出てくるような鬼の姿はしていない。2メートルくらいの身長に、真っ赤な目。爪は手と同じくらいの長さがあり、人型なのだがどこか獣のようでもあった。
「ああ、はずれちゃった」
その場にそぐわない能天気な声が聞こえた。その声の方を向くと、一人の男が立っていた。20代だろう若い男は、にこにこと嬉しそうに笑っている。
(コイツが)
やはり今回の背景に誰かいたのだ。現に鬼は里奈に目をむけているが、男の方には何もしようとしない。それに、男からは不思議な空気が読み取れた。
(何コイツ。取り巻く空気はとてもキレイなものだ)
男が何か特別なのだろうというのはわかる。ただ、それが何だか神聖なもののような気がして里奈は戸惑った。こんな人が本当に今回の黒幕なのだろうか、と。
「助けを求めても無駄だよ。この辺りに人払いの結界張ったから。ああ、君には何のことかわからないかな」
相手が馬鹿にして挑発してるのは里奈にもわかった。まだ力が目覚めて間もない事を男は知っているのだ。それに比べ自分は格段に上だと言いたいのだろう。
(人払いの結界ってそのまんまじゃん。わかるっつーの)
辺りに人はいないし、その呼び方からもなんとなくわかる。しかし鬼の方に気がいっていて、今里奈には余裕がなかった。男に言い返すこともできない。
「せっかくその筋の血筋見つけたから食べさせたのに、ちっとも力が上がんないんだ。だから君の場合は少し力が上がってからの方がいいと思ってね。生かしといてあげたよ」
くすくすと面白そうに言う男に里奈は苛立った。自分の手の中で踊らされてただけと言いたいのだろう。
「あんたそんな迷信ホントに信じてんの?」
「ああ、みんな迷信って決め付けるけどそうでもないんだよ。ボクの家の書物にはちゃんと残されてるんだから。いくらなんでも確証のないことを手当たりしだいにやるほど馬鹿じゃないよ」
ふふんと鼻で笑われる。
「ボクの家は特殊でね。もとは陰陽師の血を引いてるんだけど鬼を使役してきたんだ。でも時代とともにあんまりやらなくなったんだ。苦労したよ、教えてくれる人なんかいないから全部自分でやらなきゃいけなくてさ。強くなる方法があるならやらなきゃでしょ」
その言葉に里奈は眉を寄せた。勇哉の言葉が頭をよぎる。手に入れたオモチャは強くしたい、その通りだと思った。式神として何か目的があるわけではなく、ただ面白いからやってるだけ。
「だったら雪は何で? 雪は関係ない」
「ああ、あの子ね。君のとこにもおかしなのがいるみたいだから、そいつ疑わせようと思ったんだけど、まさか君たちが手を組むなんて思ってなかったよ。敵と手を組むなんて君馬鹿じゃない? 何考えてるのさ」
勇哉を疑わせるため。そのためだけに雪を殺した?
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