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男の言った事に里奈は呆然とした。では雪は何も関係ない。もとを辿れば、自分のせいで雪は死んだというのか。里奈に怒りがこみ上げる。相手を睨みつけると、男は一瞬驚いた表情になり、鬼は少し怯んだ。
「へえ? そこまで目覚めてたんだ。予想以上だ。でも攻撃してこないってことはうまく使えてないんじゃない?」
その通りだが、だからなんだと言う気持ちが強かった。いちいち勘にさわるこの男のしゃべり方にも苛立ちがつのる。自分は何でも知っているというのを見せ付けるような、含んだ言い方。
「ま、殺すなら今かな。下手にそれ以上力あがると厄介だし」
そう言うと男は手を軽く振った。それを合図に鬼がゆっくりと近づいてくる。
里奈は今は恐怖よりも、怒りが勝っていてきつく相手を見据えたままだ。それが男は気に入らなかった。
「君、今の自分の状況わかってるの?殺されるんだよ?命乞いとかしたら?それともまだ自分には勝機はあるって思い込んでるのかな」
「アンタうるさい。ちょっと黙って!」
我慢できず、里奈は怒鳴りつけた。鬼を無視し、男に真正面から怒りをぶつける。その言葉に男は顔を歪ませる。まったく恐怖せず、鬼ではなく自分に向っている里奈。たまらなく不快だった。
「もういいよ。君が底なしに馬鹿だっていうのはよくわかった。今すぐ死ねよ」
男の言葉に鬼は右腕を振り上げた。里奈を切り裂くつもりなのだが、里奈は今度は鬼に向った。
「お前、邪魔。どいて」
ギッと鬼を睨みつけ、低い声で言うと、鬼はわずかに体を強張らせた。そのことが男のボルテージを上げる。
「何やってるんだよ。さっさと殺せ!」
自分の鬼が里奈にけおされてるのがわかった。こんな子供に怯える鬼。それは男のプライドを刺激したのだ。鬼が負けると言う事は自分が負けるということ。断じて許せなかった。
鬼はわずかに動くだけで、里奈に近づこうとしない。男は苛立ちを隠せない様子で再び怒鳴った。
「何やってるんだよ!」
「動きたくても動けねーんじゃねえの?」
その声に里奈も男もはっと声のしたほうを振り向いた。相変わらずの余裕の笑みを浮かべ、里奈たちの方に近づいてくる。里奈は驚きよりもやはり来た、という思いがあった。しかし男は動揺するのが見て取れる。
「どうやって!?」
そういえば結界がどうのと言っていた気がする。おそらく他者を寄せ付けないものなのだろうが、勇哉はやすやすと入って見せたのだ。
「裏技」
にやりと笑い、答えになってない答えを言った。
「お前も霊力持ってる端くれなら気づけ。土屋の言霊が強すぎて動けねーんだよソイツは。まあその程度だから仕方ねーか」
勇哉の言葉に男はますます気分を害したようだった。驚愕の表情からみるみる怒りに歪んでいく。その程度、と言われたのがこたえた様だ。
「土谷はマホロバシの末裔だぞ? テメエみたいなオモチャ使って遊びまわるのと違って、目に見えない言葉や行動全てがチカラなんだよ。格も上だしな」
勇哉は面白そうに言うが、男はぐっと唇をかんだ。里奈には何を言ってるのかわからないが、里奈の方が強かったという事らしい。
「マホロバシ?」
「字はそのまんま、魔を滅ぼすと書いて魔滅ばし。妖怪倒す力を持つ一族だ。当時は陰陽師とはまた違う種族として見られてた。他にも一族はいるようだが一番有名だったのが土谷家みてーだぞ」
そんな事まで調べてたというのか。先ほどの男の態度からしても、男もマホロバシが何なのかを知っているようだった。ただ、里奈がマホロバシだとは知らなかったようだが。
「ごちゃごちゃうるさい! どうせお前も邪魔だし、コイツがどれくらい強くなったのかも見たいからね。遊んでやるよ」
そう言う男に対し勇哉はにやりと笑った。そういえば勇哉はどれくらいの力を持っているのだろうか。そもそもどんな存在なのかも知らない。人間じゃない、という事くらいしか。
「土谷は何もすんなよ。俺まで丸焦げにされたんじゃたまんねー」
振り返らずそう言う勇哉に「わかった」と答えた。こんな事言っても何だけど、今力をうまく制御できない以上勇哉に頼るしかないのだ。下手に勇哉を傷つけることはできない。
里奈から見てどちらが強いのかはわからないが、勇哉は余裕の表情だ。殺気をみなぎらせている鬼を、軽く受け流している。
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