マホロバシ

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「壊せったって」  おかしな道具に近づいてみても、どうすればいいのかわからない。触れようとすると静電気のような痛みが走り、触る事ができない。辺りに役に立ちそうな道具があるわけでもない。  結界を張っているのがこの紙だとすると、この仏具のようなものが紙を守っているということだろうか。それならまず仏具をどうにかしなければいけないのだが。 「どうすればいいの!」  痛みを我慢すればいいという話ではない。刺すような痛みが走るたびに、反射的に手を引っ込めてしまうのだ。目の前に何か飛んできたら目蓋を閉じてしまうように、自分ではどうする事もできない反射運動。  どうしようどうしよう、と焦っている間にも勇哉は戦い続けている。横から、後ろから、頭上から突風のようなものが起こり、何もないのにもみくちゃにされているような状態だ。  だんだん、イライラが募ってくる。おかしな力があると言ってもこの程度、何もできない自分。ふいに頭に先ほどの男の見下したような態度がよぎり、ますますイラついてくる。  自分の性格はよくわかっている。結構短気で切れやすく、感情をブチまけてしかもまわりにあたる。そのたびにいつも雪に少しは落ち着け、深呼吸でもしてみろといわれていた。 「雪……」  いつもクールで、物事を冷静に受け止めていてくれた親友。こんなときに彼女の言葉を思い出し、落ち着かなければと思えるのもいつも傍にいてくれた、大好きな友人だったから。  怒りを抑え、深呼吸を2回。怒りが収まると同時に、雪はもういないという悲しみがわいてくる。  ダメだ、こんなところで負けてられない。落ち込んでたり、怒りに流されている場合ではない。しっかりしろ自分。必死にそう言い聞かせる。  その時、ふと胸ポケットが熱い気がした。ポケットに手を入れると、そこにあったのは雪に渡そうと思っていたお守りだ。  そういえば、自分の能力に目覚めたときもこれのおかげで落ち着いたんだった、と妙に冷静になる。  自分自身が信じられないとき、人は何かにすがろうとする。それは神であったり他人であったり物であったり。自分では理解できないものならば、簡単に信じられるし簡単に裏切る事ができる。なんて都合のいい生き物なんだろう。  生き物であれ物であれ、そこには必ず摂理がありそれにならって「在る」ことができる。きっと、鬼でさえ何かの摂理がある。それを歪めて自分の都合のいいように変えてしまうのはきっと人間くらいなのだ。  では自分はどうだろうか。おかしな能力も、何かの摂理なのだろうか。これこそが歪んでいる事なのに? 一体何のために、バケモノ退治をするため? 人々を救うため? いや、そんな事が理由ではない気がする。  感情に流されては何も見えない。強い力だからこそ、使うべき時やその理由を間違えてはいけないのだ。何が正しくて何が間違っているのかは、今はまだわからない。 (その場の感情に流されて、取り返しのつかない事をしたくない) ぎゅっとお守りを握り締める。 「?」 その時、お守りの中に何かとがったものが入っている事に気づいた。お守りは形を整えるために板などが入っているのだが、それ以外にも何か入っているようだ。 袋を開け、逆さにして振ってみると何かが落ちる。 「何これ?」  出てきたのは三角形の石のようなものだ。サメの歯か、ギターを弾くときのピックにも似ている。素材が何なのかわからないが、硬いものではある。小さく、とても頼りになるものとは言えないのだが。  ぎゅっと、親指と人差し指で強くはさむ。決して落としたりしないように。雪が見たらばかばかしいと笑うだろうか。こんな小さなものに頼ろうとしている自分を。亜紀が見たら、きっと応援してくれる。あの子は優しい子だった。 自分のやりたい事を優先させればいい、と言ってくれたのは雪。 神様を大事にするんじゃなくて、神様が大事にしているものを大事にしなくちゃだめ……といったのは誰だったか……そうか、小さい頃の亜紀だ。 どうして忘れてしまっていたのだろう。自分も、亜紀も昔はあんなに あんなに。 この力をたくさん使って、歪みをおさめていたというのに。
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