マホロバシ

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はあ、とため息が出る。それを目ざとく見ていた友人が声をかけてきた。 「里奈ダイジョブ?」 「あ、ごめん。ん、なんとかね」  他の友人も心配そうな顔をする。それも仕方のないことだった。この友人たちは事情を知っている。  従兄弟のお兄さんが亡くなったのは先週の事。通り魔殺人で、犯人はまだ捕まっていないらしい。その葬儀の日の夜、その妹まで殺されたのだから大変だった。気分がよくないといって早めに帰宅した彼女。両親が帰ってきたら庭で惨い殺され方で発見された。 立て続けに子供を失った両親のショックは計り知れない。 「伯母さんがちょっとね、ノイローゼみたいになっちゃって。私とアキちゃん似てたから。私見ると泣くんだよね。アキって呼ぶし」  同じ年で仲のよかった従姉妹の亜紀。幼い頃は本当の姉妹とよく間違われた。それくらいよく似ていたのだ。伯母が混乱するのも無理はない。しばらく伯母さんには会わないようにして、と母に言われたのも仕方のないことだ。  友人は「早く犯人捕まるといいね」と言ってくれた。確かにそうだ。あの殺し方は普通じゃない。頭がおかしいんじゃないかと思う。体は切り裂かれ、目玉は抉られ。遺体は見てないがはっきり言ってスプラッタものだ。こんなこと友人たちにはいえないが、今回の従姉妹の死に方はさらに酷く首が取れかけていたらしい。今回もまた棺は開けられることなく葬儀は終わった。  悶々とそんな事を考えてるとき、急に寒気を感じた。また、コレか。そんな思いとともに呼吸を整える。ここ最近、妙な寒気がおそう。最初は風邪かと思ったが少し違うようだ。とにかく居心地が悪いというか、気持ちの悪さを覚える今までに感じたことのない感覚。授業中は感じることはなく、休み時間とか帰る時とかが多い。何だかな、と思っていると。 「里奈!」 友人が袖をくいくい引っ張っている。 「何?」 「また見てた~、彼」 「はあ?」 わけがわからなくて視線の先を見ると、男が一人背を向けて歩いていくところだった。後ろ姿に見覚えはない。 「誰アレ? ってか、見てたって何?」 「ふふ。最近里奈のことじい~っと見つめてるんだよね。熱い視線、気づかなかった?」 視線?いや、悪寒なら感じてた。 ふと。 あの悪寒って彼に見られてたから、ってことはないだろうか? 「あの人誰?」 「2組の薄木勇哉クン。こりゃあもう愛の告白でしょ」 里奈にも春が来たな~、なんてのんきに言う友人の頭を軽く小突いて、そうだといいけど、と思う。あの妙な寒気がもし彼の視線なら?あれは好意なんてもんじゃない、正反対だ。嫌悪、というよりはむしろ。 殺意。 「勇哉、ソレやめな」 「あ?」 移動教室に向かう勇哉に後ろからかけられた声。振り返ると友人が追いついてきていた。 「また見てたろ、5組の土谷のこと」 「あー、まーね。見てた」 隠さずに言うと友人はため息をついた。 「あのなあ。何のつもりでやってんのか知らねーけど、すっげー気味悪いぞ。もうちょい好意的な視線送れねーの?」 「何好き好んで好意的視線送んなきゃなんねーんだよ、意味ねーし」 「だからってあの目キショ過ぎ。親の敵にでも会ったみてーに据わった目でじろじろ見て」 ガラっと音楽室のドアを開け、席に着く。同時にチャイムもなった。チャイムの音が鳴り響く中、胸中でつぶやく。 (親の敵じゃなくて普通に敵なんだけど)
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