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助けて、助けて、助けて
頭にガンガンと響く声。これは誰の声?私の声?
どうして怖いの
何から逃げてるの
ふと。目の前にあるのはゆらりと蠢く陰。赤い光が二つ灯る。これは目?
助けて。助けて。
死にたくない!!
びくっと体をこわばらせて目が覚めた。嫌な汗をかいている。辺りはうっすら明るくなってきていて、時計をみると6時前だった。ちゅんちゅんというすずめの声を聞き、今が朝なのだと、さっきのは夢なのだとようやく自覚する。ほっと息をついてベッドから下りた。
1階に下りていくと母親が目を丸くした。それはそうだろう。いつも起きるのは7時過ぎだ。
「どうしたのこんな時間に。今日何かあった?」
「何もないよ。何か変な夢みて起きちゃった」
さすがに従兄弟が殺されたというのに誰かに殺されそうな夢とは言えない。
「あ、今日義姉さんの家行ってくるから。夕飯先に食べてて」
「伯母さんの様子どう?」
「まだ何とも。とにかく食事も満足に食べてないっていうから見てくるわ」
そっか、とつぶやく。自分が行くわけにはいかない。行っても混乱させるだけだから。
「私とアキちゃんってそんなに似てたのかな」
「んー、顔はもちろんそうだけど。雰囲気っていうの?空気が似てたわね。私もアキちゃんといると里奈といるみたいで不思議だったわ」
確かに従姉妹の亜紀とは一緒にいて心地がよかった。趣味なんか正反対で、似ているタイプではなかったのだが、気が合ったし一緒にいて楽しかった。
「でも昔のがもっと似てたわね」
「そう?」
「ほんとに姉妹みたいで。二人して妙な事言って周りの人困らせてたのよ。覚えてる?」
「何ソレ?」
妙な事? まったく覚えがない。
「あそこにおっきな狐さんがいるだの、ここの道路は神様がいるから大事にしなきゃダメだの。ニコニコしてると思ったら急におばけがコッチ見てるって二人同時に泣き出して。大変だったんだから」
そんな事あったっけ? 首をかしげる。幼稚園くらいの時だから、覚えてないわね、と母も笑った。
それにしても意味がわからない。狐? 神様? 何が言いたかったんだろう。
「私たちってずいぶん妄想壁のある子供だったんだ……」
子供にありがちな作り話や目の錯覚。そんな類のものだろう。変なとこで共通点があったらしい。
「昔は霊感があって幽霊でも見えてるのかって思ったけど。今みえないでしょ?」
「何にも」
「変なとこあったけど義姉さん本当に可愛がってたのよあんたたちの事。だから無理もないわ」
「うん。早く元気になるといいね」
就職と高校入学が決まった息子と娘。めでたいこと続きの後急に訪れた不幸。一刻も早く事件が解決されてほしいと思う。解決しても死んだ人間は戻らないが、このままでいいわけがない。
まだ朝食はできていないのでスープでも飲もうかな、とインスタントのポタージュを取り出した。カップに入れ、お湯を注いでる時だった。
胸がざわついた。黒い染みのようなものがじわじわ体中に広がっていくような気持ち悪さ。いつものアレとはまた違う。何だ……?
「里奈? 入れすぎ!」
「へ? ああ?!」
変な事に気を取られていてお湯を注いだままだった。カップから溢れたお湯が手にかかり、反射的にカップを手放してしまう。それは見事に左腕に直撃した。
「っっぎゃあ~~~!!!」
なんとも女の子らしくない悲鳴が早朝から土谷家に響いた。
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