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「で、朝っぱらから湿布臭を撒き散らしてるわけ」
頬杖をついて呆れ口調に言われた。腕の包帯を見るなり友人の雪は血相を変えて「どうしたの!」と言ってきたが、事情を話すとうって変わって「馬鹿じゃん」と言ってきた。
「いや、まさかあんなにきれいに腕にダイブするとは思わなくてね~」
ちらりと腕を見る。かなりイタイ。今回といい夢といい親戚の死といい、何だかよくない事続きだ。
「里奈、グラウンド見てみ~」
友人の一人がにやにやしながら外を指差す。何だろうと思い外を見ると、体育をしている風景が目に入った。どこのクラスだろうと思っていると。
「あ」
目に入ったのは彼、確か薄木勇哉という人。こちらには気づいてはいないようで、サッカーをしている。
「何?」
「あれ、ゆっきー知らないの?最近あの人、里奈のことよく見てるんだよね」
言われて雪は勇哉に視線を移した。興味深そうにリアクションするでもなく、ただじっと見ている。
「アレ何て名前?」
「薄木勇哉。ってゆーかさ、里奈もゆっきーも男に関心ないの?彼けっこう人気あるんだよ、特に年上のお姉さま方に」
言われてよくよく観察すると確かに、と思った。身長はまあまあ、細いがしっかりした体型だし何より顔がいい。性格は知らないが見た目だけなら充分かっこいい部類に入ると思われる。友人がはしゃぐのも無理はないかもしれない。だからといって彼が里奈の好みに入るかといったらそういうわけではない。それにあの視線も気になる。寒気と無関係にしても、「好きだから見てました」というような行為には到底思えない。
ふと、雪に視線を移した。さっきから固まったまま動かない。
「雪?」
「ん……ああ、ごめん。なんでもない」
何か考え込んでいるようにも見えたが、本人が何でもないというのだから何も言えない。ちょうど教師が来たので里奈は席についた。正面を向いて授業を受けようとしたとき。また感じるあの悪寒。これはもう間違いなく彼が見ている。目があいたくないのでグウラウンドのほうは見れないが、今度ははっきりわかる視線。ちらりと友人を見ると外を指差している。言われなくてもわかってるよ、と思い気にしないふりをしながらノートを開いた。
放課後。帰り支度をしながらみんなと雑談していると雪がそういえば、と言ってきた。
「今日フォースで割引セールやってるんだけど行かない?」
「え、うっそマジで?行く行く!」
お気に入りの雑貨屋でのセール。かなり心惹かれるが今の心境はそれどころではなく。
「ごめん、今日ちょっと用事あるから行けないや。じゃーね」
え~、とブーイングされる中ごめんねと言って教室を出た。
今日の昼休み、たまたま廊下で会ったのだ、彼と。
「ちょっと」
声をかけると振り向いた。間近で見るとかなりかっこいい。しかし今はそんなことどうでもよかった。
「話あるんだけど。放課後つきあって」
「へえ?」
何で、とか嫌だ、とか。疑問も否定も言ってこない。待ってましたと言わんばかりの態度に加え、面白そうに返されてムカついたのは事実。だからこんな言葉がでてしまった。
「わかった、言い方変える。テメエ放課後ツラ貸せ、逃げんな」
眉間に皺がよってたかも知れないしかめっ面で言うと、一瞬きょとんとした後おかしそうにケラケラ笑って「いいよ」と言ってきた。
このまま放置したくなかった。いつもあんな気味悪い視線送られたらたまらない。声をかけてからやっぱりあの悪寒と無関係だったらどうしようと思ったがあの態度は間違いなさそうだ。
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