マホロバシ

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 戸惑いを感じながら翌日、里奈は雪と会った。その日は土曜で学校が休みだったし、もともと遊びに行こうと約束していた。ただ少々予定を変更してまず行ったのは喫茶店だ。店に着くとてきとうに飲み物を注文した。 「まず昨日言ったのは本当。薄木勇哉は小4、10歳の時死んでるの。通り魔殺人とかで、当時は地元ではかなり騒がれたんだ、田舎だったし。体のあちこちがなくなってて、顔がなければ本人だってわからないくらい酷い状態だったって。お葬式の時は棺が開けられなかったからわからなかったけど、噂とか新聞で知った」  そういって雪が取り出したのは卒業アルバムと写真、そして新聞のコピーだった。開かれたページを見ると、名簿には確かに薄木勇哉と書かれている。そして写真は遠足に行ったときの写真だった。きれいに整列された中に幼い顔の勇哉の姿があった。新聞には通り魔殺人の記事が載っていて、被害者は確かに薄木勇哉と書かれている。 「雪って小学校どこ?」 「高知だよ。ここには中1の時引っ越してきた」 「高知……四国?」 里奈たちが住んでいるのは横浜だ。そういえば勇哉も言っていた。ここは学校が遠いから知り合いがいるとは思わなかったと。 「同姓同名のそっくりさん、ってことはないと思うよ」 「うん、わかってる。っていうか、本人認めてたし。あのね、聞いてくれる?」  里奈はゆっくりと昨日の事を話した。勇哉と会ったこと、殺された親戚について、自分の力の事。一見するとばかばかしい内容だが、雪は真剣な表情で聞いてくれた。 「あと、自分が死んでることは他に言うなって。何もしなければ、自分も何もしないから。雪は頭いいから、そういえばわかるはずだって」 そこまで言うと雪はため息をついた。やれやれ、といった感じでカフェオレを飲む。 「頭がいいってイヤミにしかきこえないんだけど、まあいいか」 「雪、どうするの?」 「ん? どうもしないよ。薄木の言うとおりじゃん。こっちが何かして変なことになりたくないし、第一する必要もないでしょ。お互い相手が動かなければ何もないんだから。それに彼に何かする理由もないしね」  これで無駄に好奇心が強かったりしたら追求するのだろうが、里奈も雪もそういった趣味はない。むしろどちらか片方でも面白そうだから調べてみようといったら止めていただろう。 「雪はどう思う? 今回の事。何か頭ん中ぐちゃぐちゃでわかんないや」 「確かに信じるには抵抗がある話だけど。あのね、まず優先させるのは信じる云々じゃなくて、里奈がどうしたいかだよ」 「私?」 「相手は何もしてこない。里奈を嫌ってはいても手は出してこないんだからこのままほっといても平気だと思うんだよね。じゃあ里奈はどうしたいか。少なくとも薄木は何か知っているかもしれない。里奈が従姉妹の敵討ちがしたいなら薄木に近づく必要があるし、薄木があやしいなら調べる必要があるでしょ。何もしないなら薄木の話はほっといてもいいけど、事を起こすならそれなりに対処しなきゃ。それからじゃない? 信じるかどうかは」 「ものごとの順序より、自分優先しろってこと?」 「まあそうだね」 ここにきて里奈はなんとなく、雪は頭がいいと言われた理由がわかった気がした。混乱した自分と違い、雪は冷静にとらえ判断できている。 「んー。とりあえず鵜呑みにしないにしてもやっぱ半信半疑ってとこ? アキちゃんがふざけたヤツに殺されたんだとしたらやっぱり許せないし。やばくない程度に調べてみようかな」 「そっか。ま、何か協力できることがあったら手伝うから」 ありがと、と礼を言うとまかせとけ、と返ってくる。頼りになる友人に、本当に心から感謝した。
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