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「お母さん、うちってご先祖様何してたの?」
「はあ? 何、急に」
家に帰ってまずしたのは家系を調べる事だった。自分におかしな力は本当に存在するのか。従兄弟にも同じ力があるということなら父方の家系になる。ただ父はすでに他界しているので確認しようがないし、今伯母に聞くわけにはいかない。かといってその事を薄木に聞くのは躊躇われた。
「何してたって、何もないと思うけど?」
「じゃあ先祖代々伝わるものとかない?」
「それも特にない。何、鑑定番組にでも出すの?」
そう問われ、曖昧に返事をした。ごまかせば深くつっこんで聞いてはこないだろうが、確かに急に先祖のことを聞き出したら不自然だろう。
「何かこう、しきたりがあるとか。家訓とか」
「そういわれてもねえ。まあ一つ変わった事ならあるけど」
「何?」
「結婚式は必ず決められた神社らしいわ。母さんも神社で、たしか義姉さんもそうだったらしいから。で、その際にお婿さんは弓、お嫁さんは扇子をもつんだけど。たしか写真あるけど、見る?」
「見る見る」
そう言うと母親は天袋からアルバムを何冊か取り出し、めくり始めた。しばらく探して、ああこれだわとあるページを見せる。
そこには若い父と母が写っていた。衣装はまるでお雛様のようだ。そういえば皇太子の結婚式もこんなかっこしてたかな、と思う。
確かに父は細く長い弓を持っている。そして母も扇子を持っているのだが。
「扇子でかくない?」
扇子といっても暑い時に扇ぐようなものではない。長さは60cmをゆうにこえるだろう。広げた姿ははっきり言って上半身の衣装がほとんど見えないくらいだ。
「そう、異様に大きいの。しかも装飾が多くて重いんだから。歩く時は閉じてるんだけど式の最中は広げてなきゃいけなくて筋肉痛になったんだから」
「これ何で持たなきゃいけなかったの?」
「何か魔除けらしいわ。悪いものを扇子で祓って弓で討つ、とか聞いたきがするけど。でもこんな大きい扇子振れないわよね」
苦笑混じりに言う。たしかにそうだろうが、当然実用性などないのだろう。結婚式の飾りに見た目重視になったに違いない。となると、魔除けというのは昔は信じられていたのだろう。
「この神社は? ウチはみんなここで式挙げてる?」
「そうよ。それにこの弓とかってこの神社に納められてるの」
「この弓とか持って結婚式挙げるのってこの神社特有なの?」
「神社じゃなくて、ウチ特有。希望があれば他の人にも貸してあげるらしいけど、それにはまずウチの許可が必要とか言ってたわ。納めてる場所は神社だけど、所有者はあくまでウチだから。正確な持ち主はええっと、お父さんは死んじゃったから義姉さんになるわね」
ふうん、と返事をもらし、ぱらぱらとアルバムをめくっていく。すると写真の中に、神社の名前が入った石柱の前で撮ったものがあった。石柱には「御守神社」と書かれている。
「おまもり神社?」
「みんなそう読んじゃうけど、みまもり神社よ。でも地元の人はおまもり神社って呼んでるらしいけど。みまもり、っていいづらいし、ここのお守りは効くって有名だから。魔除けの道具を納めてるくらいだからね」
里奈は再び写真を見た。父の持っている弓は金塗りで高価に見える。そういえば、弓は持っているが矢は持っていないようだ。
「矢はないの?」
「矢? そういえばないわね。邪魔だから持たないんじゃないの?」
母も嫁いだ身なので詳しくは知らないらしい。式の前日に道具や衣装の説明を一通り受けるそうだが矢はなかった気がする、と言った。
結局力についてはわからなかったが、気になることではある。それに魔除けというのもあながち無関係でもなさそうだ。母はあまり知らないようなので、自分で確かめるしかない。
「この神社ってどこにあるの?」
「何? 行くの?」
「うん。何か興味わいた。お守りでも買ってこようかと」
それらしい理由を言うと母は地図を持ってきて教えてくれた。電車を乗り継いで2時間ほどかかるところにあるらしい。母から見ればお守り買いに往復4時間かけて出かける娘は奇妙だろう。里奈自身もそんなこと他人がしてたら「ばっかじゃないの」と言ってるところだ。
(まあいいか。明日は日曜だし)
それに何も本当にお守りを買いにいくだけではない。長年神具を預かっている神社の神主なら何か知っているかもしれない。とりあえず財布の中を確認して、ため息をついた。雑貨セールには、行けそうにない。
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