2124人が本棚に入れています
本棚に追加
/118ページ
「読みました。『おわらない夏』」
「うわ……そのタイトル。久しぶりに聞くと恥ずかしいな。読みませんって言ったのに、読んだんですか?」
「覚えてるんですか?」
最後にお会いしたあの日の事。
私は自分の気持ちでいっぱいいっぱいで、何も見えていなかったが。
「……覚えてるよもちろん。だって意味わかんないし、辞めたって言うし。結構ショックでしたよ、〝読みたくありません〟とか」
そう言いながら、思い出したように笑うけど、
「しょ、ショックって?」
「詩織ちゃんが辞める必要はなかったのに。あれからしばらく俺は、プールには行けなかったし」
「……」
言っている意味が、全然わかんない。
わからなすぎて、聞こうと思っていた事も何もかも全部、吹っ飛んだじゃないか。
ヨシノさんあの頃、何を考えていたの?
「今日、何で来たのって聞かないの?」
「──会いにきてくれたんでしょ?」
私は一呼吸おいて、何も答えずに続ける。
「このお話、何ですか?」
「何って?」
「小説に出てくるユサって、これ誰?」
「さあ、特に誰でもないと思うけど。ただの小説だから。ユサよりサツキの方がいいキャラだと思わない? いつもじっと見てきて、犬みたいで可愛いでしょ?」
「……さつき」
「書いていて楽しかったのは、こっち、サツキの方。俺のお気に入り」
嬉しそうに、また頁を捲る。
最初のコメントを投稿しよう!