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片道二時間の距離を、頻繁に行き来する日々が始まった。と言っても、実際に行けるのは週末と平日の一往復くらい。多少大変でも無理してでも通っていたのは、相変わらず「大丈夫だから来るのは週末だけでいい」という文緒さんに、少し反抗したい気持ちがあったかもしれない。
入院した数日後に手術、その後は十日から二週間程度で退院と言われていたが、経過も良く、問題なく退院できそうだった。
ありがたいことに全てが順調で、文緒さんの思惑通りに進んでいた。
**
「芳野君、大丈夫? 顔色悪くない?」
「大丈夫です」
咲田さんに、昼過ぎたよと声をかけられ、ハッとして顔を上げた。集中し過ぎて時計を見ていなかった。
休みの調整はなんとかなっていたけれど、休んだ分の仕事はそこにあるわけで、空いた時間は仕事に充てることになる。暇な時間や余裕は、ほとんど無かった。
それは別にどうってことはないのだが……。
「咲田さん、プール……行けてますか?」
「うん。行けてますよ。大丈夫よ」
「そうですか、良かった」
俺のせいで、咲田さんにもかなり負担をかけている。
「元気だよ?」
「…………誰がですか?」
「ん? サークルの皆さんだけど」
「……良かったです。お元気で何より」
紛らわしい意味深な言い方をするから、
思い出してしまった人がいる。
すぐに頭の中から追い出した。
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