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side 暉 28歳 5月
五月最初の日は土曜日で、一日から五日迄今年は五日間の連休。
文緒さんがしばらくこちらに帰れずにいたので、久しぶりに自宅でゆっくり過ごす事になった。仮住まいのアパートにいるよりは、安心できるだろうと思ったから。
「運転して行けると思うんだけどな」
「いやダメ、絶対ダメ、長距離の運転は。
まだ本調子じゃないんだから」
自分で運転して帰るという文緒さんを説得し、車で迎えに行く。連休中の天気はずっと晴れ予報で、ドライブ日和じゃないか等と、文緒さんの気も知らず暢気なものだった。
*
「30×号室の芳野暉さんでしょうか? 郵便きてますー」
「はい、ありがとうございます」
ちょうど出ようとしたタイミングで郵便物が届く。なんだったかなこれ、本なんて買ったかな二冊も……。ああ。
例の短編集だった。
差出人に、友人の名前がある。
おおー、出来たのかとワクワクしながら、封を切らずそのまま車に載せ、出発した。
文緒さんのアパートに到着し、直ぐにこちらに戻ってくるつもりでいたのだが、
「暉君、着いたばかりで疲れてるでしょ?
ゆっくり帰ろうよ、少しやることもあるし」
「ああ、そうなの? 別にいいけど」
“少しやること”といえばおそらく、仕事のなにかだろう。連休前に会社に顔を出していて、だましだまし再開するらしい。
文緒さんのスマフォが目の前で震え出す。
──貝谷さん?
「電話来てるよ~、貝谷さんから」
「あー、はいはい」
*
「えっ? はい、いやでも申し訳ないです。居ますけど、はい、わかりました。着いたら連絡下さい」
困った様な顔をしながら電話を切った。
「……どうかしたの?」
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