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振り返り、当惑した表情を浮かべる文緒さんを見る。顔色は悪くない。
だけど文緒さん、退院してまだ十日しか経っていないんだ。頼むから無理しないで。
身体を休めて。体力も戻っていないんだよ。
「家でゆっくりして欲しいと思っていたけどそういう気分じゃないんでしょ?」
この連休は整えたかったのだと思う。
自宅に帰ってのんびりなど、的外れだった。
「……今じゃなかったら、私だって休むよ。でもタイミングが。……何? 機嫌悪いの、言いたい事があるならハッキリ言って」
「貝谷さんに、病院に送ってもらっただけだなんて、なんで嘘つくの。ウソとか誤魔化すのだけはしなかったじゃない」
「ウソってそんな、ただ病院に……」
「俺よりずっと文緒さんに近いしさ、頼りになるんじゃない?」
「……何を言ってるの? そんな、ただ職場の上司だよ? お世話になってるといっても疚しいことなんて何も……」
「嫉妬とか疑ってるとか、そういう事を言いたいんじゃなくて、ただ、」
ずっと、聞きたかった。
「文緒さんにとって俺はなんなの?」
「……夫、でしょ」
まあそうだね。
名ばかりの。
「要は仕事するなって話でしょう?」
「いや、そうじゃない」
「突然どうしたのよ。ややこしい話は、正直今は勘弁してほしい」
「突然って言うけど、ずっとおかしいと思ってた。必要ないでしょ、常に部外者みたいな夫なんて」
周りの気持ちに敏感な人が、どうして俺の気持ちだけには鈍感なんだよ。
「……必要ないなんて、そんな風に思った事はないよ。でもそう思わせた私が悪いんでしょ、すみません。──だけど私、暉君の望むような妻にはなれない。わるいけど」
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