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言われた言葉よりも、分かり合えないのが悲しい。
浮気とかDVとかモラハラだとか、決定的な何かがあって壊れるだけではない。
夫婦なんて、少しのズレやすれ違いが積もり積もって、静かに崩れていく。バラバラになったものは、どうやって繋げればいい?
俺が望む妻って何のことだっけ?
俺は文緒さんに何を期待してたかな。
意見の食い違いによる言い合いはこれまでもあったけれど、ここまで拗れた喧嘩は初めてだった。自宅に到着し『無事着いた』とメッセージを送ればすぐに既読になり『了解しました』と返事が届く。
いつもなら気まずくなった状態を何とかしようとあたふたして、電話を掛け話をする。でも今回はどうしてもそんな気になれない。そもそも心に余裕があれば、一人で帰って来るなどしなかったと思うが。
頭を冷やさないと無理だ。俺の方が。
ベッドに放り投げていたスマフォが光る。
『例の本送りました。そろそろ届くはず』
友人からだった。
──ああ、そういえば、短編集。
ぼやけた頭でのろのろと起き上がり、その本を手に取った。参加者の中に何人かの懐かしい名前を見つけて、しばらく会っていない友人の顔を思い出す。元気だろうか。
『芳野の話すばらしく良かったです。とても好評よ。恋愛モノいいじゃないですか♡』
明るくふざけたメッセージのおかげで、
ようやく少し、笑える気分になった。
現実から逃れるように、読み進める。
マメな友人がコツコツと編集しただけあり、読み応えのある作品ばかりだった。
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