side 暉 28歳 5月

5/11

2142人が本棚に入れています
本棚に追加
/118ページ
 言われた言葉よりも、分かり合えないのが悲しい。  浮気とかDVとかモラハラだとか、決定的な何かがあって壊れるだけではない。 夫婦なんて、少しのズレやすれ違いが積もり積もって、静かに崩れていく。バラバラになったものは、どうやって繋げればいい? 俺が望む妻って何のことだっけ? 俺は文緒さんに何を期待してたかな。  意見の食い違いによる言い合いはこれまでもあったけれど、ここまで拗れた喧嘩は初めてだった。自宅に到着し『無事着いた』とメッセージを送ればすぐに既読になり『了解しました』と返事が届く。  いつもなら気まずくなった状態を何とかしようとあたふたして、電話を掛け話をする。でも今回はどうしてもそんな気になれない。そもそも心に余裕があれば、一人で帰って来るなどしなかったと思うが。  頭を冷やさないと無理だ。俺の方が。  ベッドに放り投げていたスマフォが光る。 『例の本送りました。そろそろ届くはず』  友人からだった。  ──ああ、そういえば、短編集。  ぼやけた頭でのろのろと起き上がり、その本を手に取った。参加者の中に何人かの懐かしい名前を見つけて、しばらく会っていない友人の顔を思い出す。元気だろうか。 『芳野の話すばらしく良かったです。とても好評よ。恋愛モノいいじゃないですか♡』  明るくふざけたメッセージのおかげで、 ようやく少し、笑える気分になった。  現実から逃れるように、読み進める。 マメな友人がコツコツと編集しただけあり、読み応えのある作品ばかりだった。
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2142人が本棚に入れています
本棚に追加