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長い時間をかけてほとんどの小説を読み終え、最後の最後に自分の書いた小説の表紙を開いた。
こうやって文字になり何冊か印刷もされ今更だが、今回に限っては妙に気恥ずかしい。
あ――、できれば触れずにそっと閉じたい、と思いながらページを捲った。
*
「これ……」
自分で書いておきながら呆れる。
読む人が読めばわかる。
小説の中に出てくる〝彼女〟が、誰なのか。
あちこちに散りばめられている。
よくぬけぬけとこんな……、アホだろ。
俺が書いた小説は結局、初稿を大分書き直した。悲恋ものだったはずが、幸せな未来を思わせる希望のラストに変わっていた。
読後感はおそらく最初より大分良いと思う。
改めて読んでみれば、純粋に誰かを思う心とか苦しさとか切なさとか、俺がこんな話を書けるのかと、少し胸が熱い。
淡々としたどこにでも有りそうな日々を描いたはずが、今の俺にとっては手の届かない、遠い夢物語のようだった。
誰だよこの主人公の男、願望?
現実はこんなにも情けない、常にどこか虚無感を抱えて生きているつまらない人間で、一生大切にすると誓った相手の気持ちも理解できず、途方に暮れている。
慌ただしさと緊張で、なにかに追い掛けられるようなひと月だった。
少し疲れたのかもしれない。
文緒さんからの連絡は無く、その先を考えようとしても辛いばかりで、健全な考えは何も出てこない。
どうするかな明日は。この連休は。
泳ぎに行くか……。久しぶりに。
ずっと行きたいと、思っていたんだ。
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