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ガラス越しにプールの中を見ると、いつものようにノンストップで泳いでいる彼女の姿が見えた。
ああ、いた。
やっぱり綺麗な泳ぎだな。そう思いながら、泳ぐシオリちゃんから目が離せない。
そうか辞めるのか。
たまに泳ぎには来るのかな。
会う機会はほとんど無くなるという事実にショックを受けるのも淋しいと感じるのも、筋違い。
ハッと溜息を吐き、気を取り直してプールへ向かおうとした時、背中にぶら下げていたボディバッグの中に例の短編集があることに気が付いた。
「……」
シオリちゃんの目に触れることなど絶対にないと思っていたこの小説、これをもし彼女が読んだら〝気持ち悪い〟と、ドン引きするだろうか。それともただの恋愛小説として、感想をくれるだろうか。
突然目の前から居なくなると初めて知って動揺した。だから多分、判断を間違えた。
人に一度も勧めたことのない自分の小説を、彼女に読んで欲しいと思った。
よりによってこの話を。
それは衝動的なもので、どうしてあんな行動を取ったのかは、説明がつかない。
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