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プール全体がよく見える場所に、広い休憩コーナーがあり、泳ぎ終わった彼女はそこに居た。ソファーの背もたれに頭を乗せ、目を瞑っている。
しばらく顔を見ていなかった。
最後に話したのはいつだったかな、ああ、文緒さんからの着信があって、慌ただしく帰ったあの日。シオリちゃんの二十歳の誕生日。聞いたとしても、初ビールには一緒に行けなかったかもしれないが。
もう大分前の出来事のようだ。
座っていてダラリと伸びているというのに清涼感があるとか……。
素敵な子だよな。すごくいい子だし。
ただ仲の良いおっさんと女子の関係でいたかった。友人などと名前が付かなくても。
俺は俺で、いつの間にかよく知りもしない大分年下の女性を特別視していたのだから、様は無い。
「シオリちゃん」
静かに目を開けてこちらを見ると、なにかおかしなものでも見るような驚きの表情を浮かべながら「お久しぶりです」と言う。
微笑ましくて、思わず笑いたくなる。
自分の雑念を消すために、避けて、自分から逃げようとしていたくせに。勝手だな。
会えて嬉しい。
文緒さんとの関係が拗れていなければどうだったのか。
不安定な今だからなのか、分からない。
きっちり仕舞えていた気持ちが漏れてくる。
「……シオリちゃん、あのさ、実はこれ」
本を手渡すと、それを両手で受け取りじっと見ている。
なにこれって思うよな。なんで私にって。
正直俺もなんでだと思っている。
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