side 暉 28歳 5月

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「私が読んでもいいんですか?」 「ええ、読むの好きだって言ってたから」 「芳野さんが書いた小説も、載っているんですか?」 「ああうん、載っているんですよ」  このやり取りが心地良いのは、これ以上 どうにもならない事を分かっているから。 行動は抑えられても心は制御できない。 俺は彼女と何気ない言葉を交わす時間が好きだった。 「謝りたいと思っていたことがありまして」  気になっていた誕生日の事を切り出す。 自分のエゴでしかないと分かっているけれど言いたかった。 「二十歳の誕生日、おめでとうございます」  学生時代が過ぎ社会人になり環境が変われば、いろいろな事があるだろう。出会いも。 「いろんな人と出会って楽しい事が沢山あるでしょうから。陰ながら応援しています」    恋人ができたと聞かされたら、それは少しショックかもしれない。 娘でも妹でもないけれど。 ああでもそうか、それだってもう、知る由もない──。 なぜ辞める事になったのか、理由を聞こうとした時だった。 「この本、読めません」  それまで普通に、楽しそうに会話していた彼女の様子が一変する。明らかな不快感。 俺何か、まずいことを言っただろうか。 話の内容など知る訳がないが。 「芳野さんの書いた小説、私読めません、読みたくありません」 「そう、ですよね。こんなの渡されても困りますね、つい調子に乗って……」
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