社会人六年目、28歳・初夏

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 事務所の真ん中にある、広いデザイナーズ家具のようなテーブル席に案内され、なんか思っていた再会と違う、と思いながら、大人しくそのスタイリッシュな椅子に座った。  さっき手に持っていた仕事の荷物を片付けているヨシノさんを、盗み見する。 髪が少し長くなって、少し痩せた気がする。 でも、醸し出す雰囲気も、穏やかな表情も、あまり変わっていないね。 年を重ねてますます素敵になった。 「打ち合わせが長引いちゃって真っ直ぐ帰ろうと思ったんだけど。寄って良かったです」  二度と会わないと思っていた人が私の正面の席に座り「お久しぶりです」と言いながら平然とした顔をして私を見た。 ショッピングモールでお見かけしてからまだ数時間内の出来事で、この状況を飲み込めずにいるのは私。 どうしてそんなに見るの。 なぜ何も喋らないの。  ヨシノさんの意図が分からぬまま、沈黙に耐え切れず話し始める。 「今日……つい先程ですが、T町のショッピングモールでヨシノさんを見かけまして」 「ん? ああ、行きましたね。今日」 「それからさっき偶然、咲田さんと美南さんとも会って」 「俺も咲田さんとはたまに会う」 「私は大分久しぶりでした……」  あれから何年くらい経つかなと言われ、  八年くらいですね、と答えた。 「詩織ちゃんは先生をしているんだよね?」 「はい。なんで知って?」 「風の噂で聞きました」  多分、美南さんへの年賀状かな。  ヨシノさんの視線が、私が持っていた本に向けられる。そうだったこの本、 「返さずにすみません。これ……」 「懐かしいですね。まだ持ってたの?」  ヨシノさんは、テーブルの上にあった本に手を伸ばし、ぱらぱらと捲った。
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