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side 暉 27歳 1月
年末年始の休みに入り、文緒さんは、
「道路凍結していなかったー」と、意気揚々と帰ってきた。結局約一ヶ月ぶりのご帰宅。
毎年年末は彼女の実家で過ごしているが、今年は寒波到来で雪が多い予報のため、無理して遠方への帰省はしない事にした。同じ県内の俺の実家に、年始に顔を出す予定だ。
「は――、休み! 始まりの日が一番幸せ。仕事行かないでずっとここで暉君とのんびり過ごすのもいいな~」
めずらしく真横にピタとくっついて嬉しい事を言ってくれるが、そんな訳はない。
彼女は仕事が好きで、人と繋がり必要とされる事で満たされるのを知っている。今も仕事関係から掛かってくるかもしれない電話が気になって、仕事用のスマフォを離さない。
文緒さんの言う〝のんびり過ごす幸せ〟は、制限されているものがありそれを緩めるからであって、自宅に居て趣味や家事などを楽しめるタイプではない。
「じゃあ文緒さん、仕事辞めてここに戻って来る? また一緒に暮らせるね」
「いやーー、それもなあ、勇気が出ないよ、今は、辞めたくない」
「そうでしょ?」
異動願いは一応出したはずだから、それを待つしかない。
自宅近くのアウトレットモールで買い物をし、新しくできたカフェでまったりする。
二人で作った食事を、顔を見ながら食べる。
そんな風に甘くも辛くもない当たり前の時間を過ごす内、俺のこのところの低調は何だったのかと思えてくる。文緒さんが足りなかっただけなんだな、多分。情けない話ですが。
会えないから、その表情も温度もわからず文緒さんがぼやけて見えた。一緒に暮らしていない期間が長くなり、すり減っていたのかもしれない。
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