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「暉君?」
「ん?」
「おやすみ」
「え、寝るの? 子どもの話、終わり?」
「うん、眠いし答え出ないし……私も少し、考えてみるよ……」
文緒さんはそう言ったまま目を瞑った。
この人はまったく……言いっぱなしだな。
それに子どもが欲しい欲しくないの前に、淡泊過ぎて妊娠するとは思えないのですが。
目の前ですやすやと眠りかけている文緒さんの布団に潜り込む。
「……どうしたの?」
「寒くて 温まりたいだけ」
実家だし、さすがにそんなつもりはなく。
ただ文緒さんの温い身体に絡みつく。
「……ちょ、ほんと冷たい、やめてー。普通逆じゃない!? 妻より夫の方が低温て」
ははは、それ恋情の熱と逆じゃない?
なんて。
温もりも人肌も、忘れたわけではないけれど、なくても平気になってしまった。
熱くなって互いを求めていた夜は、極たまに〝夫婦はそうあるべきでしょう?〟とでもいうように、頃合いをみて訪れるだけの行為に変化した。文緒さんにとって俺は、戯れるだけの抱き枕で十分なようだ。
熱はどこに置いてきたの。
子どもというキーワードは、俺たち二人にとってどう作用するのだろう。今のこの状態を憂えているのに、大丈夫なんだろうか。
いろいろ矛盾しており、不安要素はあるけれど、離れ離れのこの距離さえなくなれば、自ずと解決するだろうと、また一緒に暮らせるようになればなんとかなるだろうと、この時はまだ、信じていた。
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