side 暉 27歳 1月

4/5
前へ
/118ページ
次へ
「暉君?」 「ん?」 「おやすみ」 「え、寝るの? 子どもの話、終わり?」 「うん、眠いし答え出ないし……私も少し、考えてみるよ……」  文緒さんはそう言ったまま目を瞑った。  この人はまったく……言いっぱなしだな。  それに子どもが欲しい欲しくないの前に、淡泊過ぎて妊娠するとは思えないのですが。  目の前ですやすやと眠りかけている文緒さんの布団に潜り込む。 「……どうしたの?」 「寒くて (あった)まりたいだけ」  実家だし、さすがにそんなつもりはなく。 ただ文緒さんの(ぬく)い身体に絡みつく。 「……ちょ、ほんと冷たい、やめてー。普通逆じゃない!? 妻より夫の方が低温て」  ははは、それ恋情の熱と逆じゃない? なんて。  温もりも人肌も、忘れたわけではないけれど、なくても平気になってしまった。  熱くなって互いを求めていた夜は、極たまに〝夫婦はそうあるべきでしょう?〟とでもいうように、頃合いをみて訪れるだけの行為に変化した。文緒さんにとって俺は、戯れるだけの抱き枕で十分なようだ。  熱はどこに置いてきたの。  というキーワードは、俺たち二人にとってどう作用するのだろう。今のこの状態を憂えているのに、大丈夫なんだろうか。  いろいろ矛盾しており、不安要素はあるけれど、離れ離れのこの距離さえなくなれば、自ずと解決するだろうと、また一緒に暮らせるようになればなんとかなるだろうと、この時はまだ、信じていた。
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2183人が本棚に入れています
本棚に追加