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「シオリちゃん?」
呼んでも振り返らない。
「危ないですよ、自転車来てます」
「え? ああ……」
ようやく俺の声に気づき振り向くと、急いで此方へ来ようとした拍子に、よろけて転びそうになる。腕を引き支える形になった。
「大丈夫? なにか飲みました?」
ボ――ッとしている。
女性群の中で遊ばれていたもんな。
シオリちゃんが顔をこちらに向けると、思った以上に近く、至近距離で見つめ合う形になった。
「あ」
「どうしたの?」
みるみる顔が紅潮し、フイっと横を向いたまま、もう俺の方を見ることはなかった。
そのタイミングで美南さん達が戻ってきたので、何も言えずそのまま別れたけれど、
その頃からだろうか……、シオリちゃんとの間にある微妙な空気が、気になり始めた。
最初は全く意味が分からない。
俺が時々、人間観察ならぬシオリちゃん観察をしていたことを気付かれ「何見てんの」と気色悪く思われているなんて事は……無い、と思うが、本当に分からない。
週に一、二度、プールで顔を合わせるだけ。嫌われるような事をした覚えはないのだが。
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「シオちゃんて、芳野君に懐いてるよね~」
「シオちゃん? 誰っすか? それ」
職場の後輩と咲田さんと俺の三人で、社食で昼飯を食べている時に、咲田さんが余計なことを言い出した。
「プールでバイトしてる監視員の女子」
「芳野さん、プールで何やってるんですか。結婚してるのに悪い男ですねー」
「何もしてない」
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