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「懐くというよりは、芳野君はそんなつもりなくても、多分シオちゃんの方はさ──、
……まぁ仕方ない、芳野君のとこは円満だしね。いい子なんよシオちゃん、罪な男なの、芳野君。どうしようもない」
「……」
勘のいい咲田さんの目にそう映るのなら、俺が薄々感じている事は、合っているのかもしれない。
でもまさか。なんで、いつから?
普通に挨拶はしてくれる。
けど俺を見つけると、くしゃりと嬉しそうに笑い、にやけながら顔を下に向ける。
その様子がとても不可解で、可愛くて……、じゃなくて。
いやいやいやと、心の中で首を横に振る。そこにはもう、出会った頃のようなクールでスンとした印象の彼女はいない。
あの年代特有の、年上の男に憧れるような精神状態、その相手にたまたま俺が選ばれたのだとしたら、光栄なことだと思う。
ただの自惚れかもしれないし、真に受けて、〝立場〟を忘れ恋に溺れるなど有り得ない。
一定の距離を保ちながら、話す事といえば何気無い世間話のようなものばかり。
楽しそうに笑顔で接してくれるが、それ以上近付いてこない生真面目さが彼女らしい。
けど彼女らしいって何? 俺はシオリちゃんの事など、実際は何も知らない。
「四月に二十歳になるって言ってたね、
それはお祝いしてあげようよ。皆でわいわいなら問題ないでしょ」
「二十歳なんですか!? その子。ますます悪い男っすね」
「……何日ですかね、誕生日」
「四月の、わかんない。今度聞いてみる」
例の〝初ビールが飲みたい〟ってやつか。たしかに、おめでとうは言いたかった。
誕生日といえば、俺ももうすぐ28になる。この歳でお祝いへの期待は薄いが、今年はちょうど週末に当たるため、うまくいけば、文緒さんと二人で食事くらいは行けるかなと思っていた。
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