side 暉 27歳 2月、3月

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**  三月半ばを過ぎると、帰りが遅くなる日が増えた。気分転換は必要、週末くらいは、と言い訳しながら、金曜は時間を作り泳ぎに行くようにしていた。  プールの受付には、サークルの日は毎週 シオリちゃんが居る。彼女がバイトを始めて覚えている限り、居なかった事はないんじゃないかな……、それくらい当たり前の光景になっていた。ところが今日は受付に誰もおらず、あれ?と思いながら、辺りを見回す。  別の場所から、小さな話声が聞こえた。 「───ね? 危ないのわかった? 走るとすべって転んじゃうし、誰かにぶつかったら誰かも痛くなっちゃうよね?」 「うん。シオコーチ、ごめんなさい」 「うんいいよ。今度は走らない、気をつけようね。ゆう君、ほら、……」 「──!」 「アハハ、でもあんましケガしないでね? はい、カットバン貼ったからもう大丈夫!」  少し離れたベンチに、小さな子どもと、 その子の擦りむいた膝の手当てをするシオリちゃんの姿があった。おそらく水泳教室の時にいた幼児だと思うが、その微笑ましいやり取りに、ついにやけてしまう。 〝傷は男の勲章だ〟って……。  水泳教室のコーチを始めた頃、ぎこちなく固まっていたシオリちゃんは、回を重ねる毎にどんどんそれらしくなっていった。 子ども達と一緒に子どもみたいに笑うから、慕われて、すぐに人気者になった。いまだに親と一緒に泳ぎに来る子もいる。 「シオコーチはなんで泳ぐの上手なの?」 「シオもね、ゆう君くらいの小さい時からずっと泳ぐ練習していたんだよ―」
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