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「ぼくも上手く泳げるようになるかなぁ」
「うん、なるよ。ゆう君泳ぐの好き?」
「あんまり」
「そうなのかー。何か好きなことある?」
「粘土とお絵かき」
「おっ、すごいね。それなら好きなことをいっぱいするといいよ。上手になるよ」
「プールは?」
「ゆう君は泣かないでプールに入れるようになったからエライよね。でもプールも少し、頑張ってみる?」
回数券を受付に置いて、中に入っても問題はなさそうだが、最近、あまり見る機会のなかった彼女の満面の笑みに目を奪われ、俺は無意識にその様子を眺めていた。
「ごめん―遅くなりました、シオコーチ!」
「あーゆう君のママ、慌てないで大丈夫ですよー。髪の毛乾かさなくていいですか?」
「うん、髪は大丈夫。ゆうのケガの手当てしてくれて、ありがとうございました!」
「いえいえ。またねゆう君、バイバイ!」
振り向いた瞬間、受付カウンターの前にボーッと立つ俺に、ようやく気が付いた。
「芳野さん! すみません気付かずに」
「いえ、今来たところです」
回数券をピリリと切り離す。
「相変わらず〝シオコーチ〟なんですね」
「はい、そうなんですよ。今の子はずっとプールに入れなくて泣いていた子だったのでよけいに情が移って仲良しになっちゃって」
「シオリちゃんは子どもが好きですね」
え? と、不思議そうな顔をする。
「そう見えますか?」
「うん、見えますよ。すごく心を掴むのが上手いなって」
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