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普段ならこんな立ち話などしない。
挨拶を交わし、せいぜい一言二言。今のは、明らかにお互い不自然だった。
少し苦笑いしながら俯いたシオリちゃんを見て、思考が鈍る。何故こんな話……。
「あっ、大変だよ芳野さん! この休憩時間終わったら、あと一時間しか泳げません!」
「そうでした。泳いできます」
慌てたふりをして、更衣室へ入る。
荷物をロッカーに入れ、ため息が漏れた。
なんだこれ……。
少し、動揺している。
何にだろう。
彼女にあんな顔を、させたくなかった。
楽しそうに笑うところを、見ていたいと思った。
好かれている等関係なく、シオリちゃんは俺にとって、好ましい人だ。
凛として、真っ直ぐで。
ここに来ると安心する。彼女を見ると自然と口角が上がる。そんな風に思う資格も深入りする気もないのに、そう思う。
文緒さんが居ない日常を淋しく感じているからだろうか。
満たされていたら、こんな気持ちにはならなかっただろうか。……わからない。
とにかく冷静になろうと思いながら、
シャワーを浴びプールに向かった。
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