side 暉 27歳 2月、3月

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*** 『最近どう? 仕事忙しいよね?』  文緒さんから掛かってきた電話でそう聞かれ、ん?めずらしいな、と思いながら、 「そうだね、決算月だから帰りは遅いかな」  そう答えたこと。  そんな些細なことが発端となる。  いや、俺たち夫婦はおそらく、きっかけになる何かを探していたのかもしれない。 『そっか、それなら頑張ってね、じゃあね』 「え、結局何の話で電話くれたの?」 『暉君の声が聞きたかったのよ』 「そんなことある?」 『何それ、普通にあるでしょ。夫の声が聞きたいとか、たまにはいいでしょ』  わざと甘えたような、文緒さんらしくない台詞に誤魔化され、電話を切ってしまう。    なんだろう。なにかあった? 落ち込んでいるようには聞こえなかった。 むしろ明るかったけれど……。 首を傾げながらもう一度かけ直した時には、電話は繋がらなくなっていた。  正月以降、毎週末なるべく一緒に過ごしてきたけれど、三月はとくに文緒さんだけではなく、俺の方も打ち合わせやイベントが立て込んでおり、二週続けて別々に過ごす事になった。忙しさに(かま)けて、少し感じた胸騒ぎは放置した。  次年度、妻の異動希望は叶わなかった。 また一年、このままこの別居生活は続く、という事になるのだろうか。 《来週末は帰って来るよね?》 《うん、帰る予定にしています》  文緒さんからのメッセージを読み、ハハ、この調子だと忘れてるなと思いながら、カレンダーを見た。あと一週間で、四月だ。
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