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side 暉 28歳 4月
「あれー芳野君、駅前のジムのサイトなんか見てどうしたのーっ?」
「咲田さん……。覗かないでくださいよ」
昼休みの終わりに、なに気なくスマフォで会社近くにあるジムのサイトを見ていると、咲田さんに見つかり驚かれた。
「プールに泳ぎに行くのやめちゃうの!?」
「いや、やっぱり遅くまでやってるのは便利ですよね、ほら23時まで営業してるって。それに、たまに走りたい時もあるし」
「ふーん……」
「……別に、ただ見てただけです」
新年度だしと、思っただけです。
その意味深な笑みは止めてほしい。
四月最初の金曜日、少し遅い時間にプールに着いた。受付にはいつも通り彼女の姿があり、「こんばんは」と、いつも通りの挨拶を交わす。「皆さんもう泳いでいますよ」と言われ、仕事が終わらなくてと理由を返す。
シオリちゃんとは、その後も特になにも無い。年齢も離れていて、接点といえばただプールで顔を合わせるだけの友人にすらなり得ない人。通り過ぎてしまえば、“あの頃少し感傷的になっていたな”と、淡い思い出として記憶に残るかどうかくらいの。
そう思ったら、少し気が楽になった。
考えても仕方の無いことは、考え無い。
「芳野さん」
「はい」
めずらしく呼び止められ、振り返る。
何か話があるようだが、じっと顔を見たまま固まるから、久々にじっくり真正面から彼女の顔を見る状況になった。
「え、あ、間違えた。何でもありません」
「何それ、言いかけて忘れたんですか?」
慌てて誤魔化そうとする様子に、吹き出してしまう。なんだよ、気になるから言って?と、問い質したくもなるけれど、何でもないと言うならば、聞かない。
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